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2004年1月

2.消防防災分野における現下の諸問題への対応策に関する答申

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消防防災分野における現下の諸課題への対応⽅策に関する答申

平成15年12⽉24⽇
総務省消防庁

本年に⼊り、わが国を代表する企業において⼤きな企業災害が相次いだことにより、住⺠の安全・安⼼が脅かされるなど、消防防災分野には⼤きな課題が存在しております。

このため、消防庁では、本年10⽉に消防審議会に対して諸課題への対応⽅策について諮問を⾏い、①産業施設の防災対策の推進、②住宅防⽕対策の推進、③国⺠保護法制の制度化への対応、④救急救命⼠の薬剤投与の⽅向性、⑤その他の諸課題(緊急消防援助隊の編成及び施設の整備に係る基本的事項に関する計画、消防⼒の整備⽅針、消防団の充実強化・活性化)についての議論がなされてきました。

その結果、消防審議会では、「消防防災分野における現下の諸問題への対応⽅策に関する答申」を取りまとめ、本⽇消防庁⻑官に対し答申の⼿交が⾏われましたので、お知らせいたします。

消防審議会答申の概要
「消防防災分野における現下の諸課題への対応⽅策に関する答申」
現状と課題

  • 昨年及び本年において、社会情勢の変化や災害の多様化等に応じ、消防組織法・消防法の改正等多くの重要な意義を有する制度改正がなされた。
  • こうした災害等に対処するため、以下のような現下の諸問題につき、その対応⽅策について鋭意検討した。

1.産業施設の防災対策の推進
2.住宅防⽕対策の推進
3.国⺠保護法制の制度化への対応
4.救急救命⼠の薬剤投与の⽅向性
5.その他の諸課題
(1)緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的事項に関する計画等
(2)消防⼒の整備指針
(3)消防団の充実強化・活性化

対応策
1.産業施設の防災対策の推進
2.住宅防⽕対策の推進
(1)法制度化のあり⽅

従来個⼈の⾃助努⼒を中⼼に考えられてきた住宅防⽕対策について⾒直し、法制度化の導⼊


  • ア.対象住宅…消防法令により⾃動⽕災報知設備が義務付けられていない⼾建住宅及び延べ⾯積が500㎡未満の共同住宅等
  • イ.対象機器…住宅⽤⽕災警報器等(その他の住宅⽤防⽕機器等についても引き続検討)
  • ウ.⼿法…消防法に全国⼀律に制度化を図る根拠を設けるとともに、既存住宅への適⽤時期等について⼀定の経過期間を設けるなどの事項については条例に委任

(2)市場機能の活⽤

  • ①住宅⽤⽕災警報機等をはじめ住宅⽤防災機器等の性能を適切に評価した保険料の割引制度について、損害保険業界に働きかけ
  • ②技術開発の促進、リース⽅式等の販売⽅法の導⼊について関係業界に働きかけ
  • ③消防団、婦⼈防⽕クラブ等と連携した住宅⽤⽕災警報器等の設置、維持管理等に係る啓発などの普及⽅策の推進。報道機関に対して、住宅防⽕対策の重要性や住宅⽤防災機器等の普及の必要性に係る啓発等について取組要請。

3.国⺠保護法制の制度化への対応

4.救急救命⼠の薬剤投与の⽅向性
5.その他の諸問題
消防防災分野における現下の諸課題への対応⽅策について

Ⅰ.基本的な考え⽅

我が国の消防は、昭和23年に地域に密着した⾃治体消防として発⾜して以来、本年で55年が経過し、この間、関係者の努⼒の積み重ねにより、制度、施策、施設等の充実強化が図られ、⽕災の予防・消⽕はもとより、救急・救助から地震、風⽔害等への対応など、国⺠の安全・安⼼の確保に⼤きな役割を果たしてきた。

特に、昨年及び本年において、社会情勢の変化や災害の多様化等に応じ、多くの重要な意義を有する制度改正がなされた。

平成14年には、平成13年9⽉1⽇に発⽣した新宿区歌舞伎町ビル⽕災を踏まえ、違反是正の徹底、防⽕管理の徹底、避難・安全基準の強化を柱とする消防法の改正が⾏われた。

さらに、⾃治体消防55周年を迎えた本年は、本審議会の答申(平成14年12⽉24⽇)等を踏まえ、⼤規模・特殊災害時における消防庁⻑官の出動の指⽰及びこれに伴う国による財政措置など全国的観点からの緊急対応体制の充実・強化等のための消防組織法の改正、国による主体的な⽕災原因調査、消防⽤設備等に係る技術基準における性能規定の導⼊等のための消防法の改正、救急救命⼠の処置範囲の拡⼤等の制度改正も⾏われたところである。

しかしながら、本年は、宮城県北部地震や九州地⽅を襲った集中豪⾬、台風10号や北海道⼗勝沖地震等の⾃然災害とともに、さらには我が国を代表する企業等の産業施設における災害など、多種多様な災害が発⽣した。

こうした災害等に対処するため、本審議会は、以下のような現下の諸問題につき、その対応⽅策について鋭意検討することとしたものである。


  • 平成15年に⼊り、企業の製造拠点、⽯油コンビナート等特別防災区域内の事業所、ごみ固形化燃料(RDF)発電所等関係施設等において⼤規模な事故災害が続発しており、各企業における安全管理体制の再構築、資機材等の整備等が求められている。
  • 国⺠保護法制については、平成15年6⽉の武⼒攻撃事態対処法の施⾏の⽇から1年以内を目標として整備することとされており、これに対応した国・地⽅を通じた体制整備等が求められている。
  • 救命率の更なる向上を目指すためには、救急救命⼠の処置範囲の拡⼤と救急救命⼠数増加が必要であり、救急救命⼠の薬剤投与については、その早期実施について積極的に対応していくべきである。
  • その他の消防防災分野の課題として、①消防組織法により法定化された⼤規模・特殊災害に対処するために設けられた緊急消防援助隊について、その編成及び施設の整備等に係る基本的事項に関する計画の策定等、②市町村が消防⼒の確保を図るための指針としての機能を果たしてきた「消防⼒の基準」の⾒直し、③災害時に即時に対応でき、地域密着性等を備えた消防団の充実強化・活性化、を⾏う必要がある。

以上のような喫緊の課題に対処するため、消防庁において、下記の対策について関係法令の改正や予算措置・地⽅財政措置を含む所要の措置が講じられ、これらの施策の円滑・速やかな実施が図られることを求めるものである。

Ⅱ.産業施設の防災対策の推進
1.⽯油コンビナート等特別防災区域における防災対策の強化
2.ごみ固形化燃料等関係施設の安全対策の検討
3.企業事故防⽌対策の推進

Ⅲ.住宅防⽕対策の推進
【現状と課題】
(1).住宅⽕災の状況

放⽕⾃殺者等を除く住宅⽕災による死者数は、近年、増加傾向で推移し、建物⽕災による死者数の8〜9割程度を占めており、その死に⾄った理由の多くが避難の遅れ(約87%(不明・調査中を除いた場合))である。

特に、平成14年中の同死者数は、992⼈(対前年⽐+69⼈、7.5%増、昭和61年(同死者数1,016⼈)以降としては最悪)、平成15年上半期(1⽉〜6⽉)の同死者数は、概数で646⼈(前年同期⽐+57⼈、9.7%増)と急増している状況にあり、今後、⾼齢化の進展とともに、さらに同死者数が増加するおそれがある。

また、近年の主な建物⽤途別にみた⽕災100件当たりの死者数は、住宅においては、多数の者が利⽤する物販店舗、旅館・ホテル、病院などと⽐べても5倍程度で最多となっている。

住宅防⽕対策については、これまで広報・普及啓発活動等を中⼼に取り組んできたところであるが、住宅⽕災による死者発⽣の状況等を踏まえ、新たな⽅策が必要となっている。

(2).法制度化の現状と課題

⽇本では、消防法で⼀定規模の共同住宅等について消防⽤設備等の設置の法制度化が図られている⼀⽅で、⼾建住宅はその対象とされていないが、住宅については、消防法令の改正による規制強化が進められた特定⽤途の防⽕対象物と⽐べて出⽕件数当たりの死者数が著しく⾼いなど⽕災による死者の発⽣危険が他の⽤途に⽐べて⾼く、さらに隣家等への延焼危険性も⼤きいことから、住宅防⽕対策は単に個⼈の問題ではなく、市⺠社会における個⼈の責任を全うするためにも、居住者本⼈、家族、さらには地域社会への配慮を踏まえた対応が必要となっている。

また、個⼈の命を守る観点から道路交通法においてシートベルト装着の義務付けが⾏われており、最近では、個⼈の健康を守る観点からシックハウス対策として建築基準法において個⼈住宅も含めた建築物の居室に換気設備の設置が義務付けられるなど、個⼈の⾃⼰責任と⾔われていた分野にも社会全体の安全確保の観点からの法制度化が図られている。

さらに、⼾建住宅への住宅⽤⽕災警報器等(住宅⽤⽕災警報器⼜は⾃動⽕災報知設備をいう。以下同じ。)の設置義務化については、「消防・救急に関する世論調査(平成15年内閣府)」によると、「賛成」「どちらかといえば賛成」を合わせて約67%となっており、国⺠意識の⾼さがうかがえる。⼀⽅、⽶国では⼤半の州の州法で、英国では建造物法に基づく建造物規則において、それぞれ住宅⽤⽕災警報器等の設置に係る法制度化が実施され、死者発⽣の⼤幅な減少が図られている。

(3).市場機能の状況

住宅⽕災保険は、⽇本では、住宅⽤⽕災警報器等の設置による割引は⼀般的には⾏われていないが、⽶英では⾏われている。

現状の主な住宅⽤防災機器等(住宅⽤⽕災警報器等、住宅⽤消⽕器、住宅⽤スプリンクラー等をいう。以下同じ。)の価格は機器の種類・性能によって異なるが、⼀般消費者にとって負担感もあり、⽶国及び英国と⽐べても割⾼と⾔われている。

また、住⺠にとって住宅⽤防災機器等の存在、その効果等の周知が図られていないとともに、住宅⽤防災機器等の⼊⼿⽅法が分かりづらいという状況である。

【対応の考え⽅】
(1).法制度化のあり⽅

①法制度化の必要性

個⼈が私⽣活を営む場である住宅の防⽕責任は、当該個⼈が負うべきものではあるが、住宅防⽕に係る社会的な影響の⼤きさ、社会情勢の変化を踏まえ、従来個⼈の⾃助努⼒を中⼼に考えられてきた住宅防⽕対策について⾒直し、法制度化の導⼊を図ることが必要である。

②対象とする住宅

  • (ア).⼾建住宅、共同住宅等の形態にかかわらず、住宅⽕災による死者発⽣のおそれは同様に存することから、消防法令により⾃動⽕災報知設備が義務付けられていない⼾建住宅及び延べ⾯積が500㎡未満の共同住宅等の住宅について、法制度化を図る必要がある。
  • (イ).新築住宅については、新築の際に住宅⽤防災機器等の取付けを⾏うことができることから住⺠の負担感が⽐較的少ないと考えられ、かつ、消防同意等により設置の実効性を担保する⽅策も考えられることから、義務化を⽐較的円滑に図ることができると考えられる。
  • (ウ).既存住宅については、新規に費⽤が発⽣すること、普及率が低いこと等の課題もあるが、⾼齢者の多くが地域の既存住宅に居住していること、死者低減の緊急性等を勘案すると、地域住⺠の理解を得ながら義務化を図ることが適当である。

③対象とする機器

当⾯、住宅⽕災による死者発⽣の抑制について効果が顕著であり、⽶英においても制度化されている住宅⽤⽕災警報器等とすることが適当である。

なお、住宅⽤消⽕器、住宅⽤スプリンクラーその他の住宅⽤防災機器等についても、⻑期的には、引き続き検討を進める必要がある。

④法制度化の⼿法

法制度化の⼿法としては、消防法による対応と条例による対応が考えられる。消防法による対応は全国⼀律に制度化を図る⽅が適当な事項に⽤いられるものであり、条例による対応は住⺠の⽇常⽣活に関係の深い事項や地域によって異なる対応を図った⽅が有効な事項について⽤いられるものである。

近年の住宅⽕災による死者発⽣の増加の状況、特に、最近急増している状況を踏まえると、住宅防⽕対策を推進することは全国的に緊急性の⾼い課題であるため、住⺠に⼗分な周知・徹底を図りつつ、住宅⽤⽕災警報器等の設置について、消防法に全国⼀律に制度化を図る根拠を設けるとともに、既存住宅への適⽤時期等について⼀定の経過期間を設けるなどの事項について条例に委ねることが必要である。

消防法による制度化に際し、住宅⽤⽕災警報器等の設置及び維持の基準については、それぞれの地域の住宅⽕災による死者の発⽣状況、住宅⽤⽕災警報器等の普及率、住宅の構造、利⽤形態等の実情を勘案する必要性が⾼いため、全国的な標準を⽰すとともに、詳細については条例に委ねることが必要であるとともに、極⼒、住⺠のニーズに容易に対応できるようにするなどその普及促進に資するものとする必要がある。

さらに、市場機能の活⽤等による機器等の普及率の向上を図るなどにより違反の状態が例外的なものになるよう努めることが必要である。

(2).市場機能の活⽤
①保険制度

住宅⽤⽕災警報器等をはじめとした住宅⽤防災機器等の設置が⾏われた場合、当該機器等の性能を適切に評価した保険料の割引制度について、損害保険業界に積極的に働きかけていくことが必要である。
②その他の普及⽅策

消費者の負担低減のための⽅策として、⽶英のように廉価なものを供給できるようにするほか、設置⼯事が不要なもの等の技術開発を促進するとともに、適正な維持管理のため、販売⽅法について、リース⽅式等の販売⽅法の導⼊等についても関係業界に働きかけることが必要である。

また、消防団、婦⼈防⽕クラブ等と連携した住宅⽤⽕災警報器等の設置、維持管理等に係る啓発などの普及⽅策を積極的に推進するとともに、報道機関に対しても、住宅防⽕対策の重要性や住宅⽤防災機器等の普及の必要性に係る啓発等について、これまで以上に取り組んでいただくよう要請する等の働きかけを⾏うことが必要である。

Ⅳ.国⺠保護法制の制度化への対応
Ⅴ.救急救命⼠の薬剤投与の⽅向性
Ⅵ.その他の諸課題

1.緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的事項に関する計画等
2.消防⼒の整備指針
3.消防団の充実強化・活性化

消防機関のこれまでの取組み

消防庁では、平成3年から「住宅防⽕対策推進に係る基本⽅針」の策定と「住宅防⽕対策推進協議会」の設置により広報活動等を中⼼とした住宅防⽕対策を推進してきている。

地⽅公共団体では、⽕災予防運動等における住宅防⽕診断の実施、住宅防⽕パンフレット等を活⽤した広報活動、住宅防⽕対策推進協議会(地⽅推進組織)の設置、⽕災予防条例における住宅防⽕対策推進の規定化(努⼒義務)【38市町村】等の取組みを実施している。

⽇本における住宅防⽕に係る規制の概要

消防法における消防⽤設備等の設置については、住宅関係では、寄宿舎、下宿⼜は共同住宅について、設置基準(⾃動⽕災報知設備については延べ⾯積が500㎡以上、3階以上の階で床⾯積が300㎡以上等、スプリングラー設備については11階以上の階等)が規定されているが、⼾建住宅には規定がない。

なお、耐⽕構造で開放廊下タイプのいわゆる公団型の共同住宅の多くは、5階建て以下の部分については、⾃動⽕災報知設備の設置が特例の適⽤(廊下等に⾯する部分の窓等の⼤きさを⼩さくする、押しボタンにより居住者に警報設備を設置すること等の⼀定要件を満たす場合)により免除されている。





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